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東京高等裁判所 昭和41年(ネ)2859号 判決 1969年2月10日

主文

原判決を次のとおりに変更する。

控訴人は被控訴人に対し別紙物件目録(一)記載の建物のうち同目録(二)記載の部分から立退いてこれを明渡し、かつ昭和四三年九月一五日以降右明渡まで月金八万円の割合による金員を支払え。

被控訴人のその余の請求は、これを棄却する。

控訴人の反訴請求は、これを棄却する。

訴訟費用は本訴、反訴を通じ第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の本訴請求を棄却する。被控訴人は控訴人に対し別紙物件目録(一)記載の建物および土地につき東京法務局新宿出張所昭和三九年七月一三日受付第一五、六七六号をもつて同日なされた代物弁済を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続をなし、かつ、昭和四〇年三月四日から昭和四二年三月三日まで月金一八六、〇〇〇〇円の割合による金員を支払え。訴訟費用は本訴反訴を通じ第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決および右金員支払の部分につき仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠関係は、次に附加訂正するほか、原判決事実欄記載のとおりであるからこれを引用する。

第一  控訴人の主張

一  訴外相原満及び大明建設株式会社が連帯して被控訴人より借り受けた金員の利息の利率は月四分の約である。即ち相原が月二分の利息を支払い、それとは別に大明建設株式会社が月二分の謝礼金を支払う約であつたから、全体としての利息は月四分の約定となるわけである。

しかして相原らは借受当日の昭和三八年一〇月一〇日利息謝礼金として金八〇万円、同年一一月九日利息として金二〇万円、同年一二月九日同金二〇万円、昭和三九年二月一〇日利息および損害金として各金二〇万円、同年三月一〇日損害金として金二〇万円、同年四月二〇日に前日までの損害金として金五三万円を支払い、かつ右日時元本に金二〇〇万円を弁済した上、控訴人において残債務につき免責的債務引受をし、そして控訴人は同年五月二三日利息として金一〇万円を支払つた。従つて右利息損害金につき前記約定利率を利息制限法所定の利率に引き直しその超過分を元本債務に充当すると、昭和三九年四月二〇日現在、控訴人において債務引受した元本債務は六百数十万円に過ぎないこととなる。

二  控訴人の約定した右債務引受契約の際には、これを担保する抵当権の目的たる別紙物件目録(一)記載の建物及びその敷地(以下本件物件という。)を控訴人において相原より抵当権つきのまま譲り受けるとともに相原の約した本件物件についての代物弁済予約上の地位を承継したものであるところ、その当時における本件物件の時価は二千万円相当であるから、被控訴人は右予約完結権の行使により僅か六百数十万円の債権のためその三倍以上の財産を取得しうることとなり、暴利行為というべきであつて、前記契約中少くとも右代物弁済予約上の地位を承継する部分は民法第九〇条に違反し無効というべきである。従つて被控訴人は右予約完結権の行使により本件物件の所有権を取得しえないものである。

三  (一) 仮りに被控訴人が右予約完結権の行使により本件物件の所有権を取得したとしても、控訴人は被控訴人に対しこれと同時履行の関係にある次の債権を有するから、その引渡しを求める本訴請求についてはその限度で引換給付の判決がなさるべきである。即ち、被控訴人の本件貸金債権に対しては、前記一のように、相原及び大明建設株式会社においてその元金の内入として金二〇〇万円及び利息損害金として金二三三万円を支払い、その後控訴人は利息として金一〇万円を支払つているのであるから、被控訴人が当初に約定した代物弁済予約の完結により本件物件の所有権を取得した以上、右弁済金合計金四四三万円を不当に利得したことになり、その弁済者に対しこれを返還する義務を負うものである。もつとも右のうち四三三万円は相原及び大明建設株式会社が弁済したものではあるが、本件債務引受契約においては、右訴外人らの被控訴人に対する一切の債権債務を控訴人が承継する約であつて、そのうちには右の如き将来の一部弁済金返還請求権も包含されており、またこれに関する譲渡人らからの譲渡通知もその際被控訴人に対しなされていたものである。従つて被控訴人は控訴人に対し右合計金四四三万円を本件物件の所有権移転登記の完了した昭和三九年七月一五日限り返還すべき義務があるところ、被控訴人は金融業を営む商人であつて本件貸借はその営業のためにした商行為であるから、その翌日以降商事法定利率たる年六分の割台による遅延損害金を支払うべきである。そして本件物件の引渡と右一部弁済金の返還とは対価関係にあるから、控訴人は右金四四三万円およびこれに対する昭和三九年七月一六日以降完済まで年六分の割合による金員の支払を受けると引換えにおいてのみ、本件物件を被控訴人に引渡す義務を負うものに過ぎない。

(二) 被控訴人の相殺の抗弁につきその主張の事実はすべて争う。

第二  被控訴人の主張

一  本件消費貸借の利息は月二分、遅延損害金は月四分の約定である。被控訴人が弁済を受けた控訴人主張の元利金等のうち、貸借当初金八〇万円の利息謝礼金の支払を受けたことは否認するが、その余はすべて認める。当初支払を受けた金額は金七〇万円である。

二  本件貸借は大明建設株式会社の代表取締役たる訴外梶原好恵が相原に本件建物の建築を勧めて同会社においてその建築を請負い、その建築資金として相原と右会社が連帯して被控訴人より借り受けたものであるが、右梶原はその融資金を他に流用して右建築の完成を遅延させ、相原がやむなく本件物件を投げ出すのを待つて、自分の息子である控訴人により昭和三九年四月二〇日被控訴人に対する残債務を引受けるとともに本件物件の所有権を取得し、しかも相原に対し買受代金の清算金を支払わないのみか、本件建物の部屋貸しを始め多額の保証金を取得するにいたつた。本件債務引受はかような事情の下になされたものであるばかりでなく、本件物件の時価はその当時一五〇〇万円程度で、これを担保としての銀行融資額はせいぜい五〇〇万円ないし七〇〇万円が限度であるから、本件代物弁済予約上の地位の承継契約は決して暴利行為ではない。しかも右予約上の地位の承継は、相原らと被控訴人および控訴人の三者間において、相原は被控訴人に元本の一部金二〇〇万円とそれまでの損害金を支払い、控訴人は本件物件を取得するとともに残債務八〇〇万円を引受けこれに随伴する相原の代物弁済予約等の契約上の地位をそのまま承継する旨を約定したことによるものであるから、右代物弁済予約上の地位を承継する契約の部分のみを捉えてその一部の無効を主張することは許されない。

三  控訴人の同時履行の抗弁は次の理由により失当である。

(一)  代物弁済の予約後一部弁済があつた場合に予約完結のとき一部弁済金額を不当利得として返還すべきであるとしても、控訴人は本件物件を買い受けた際、相原に対する買受代金から大明建設株式会社が被控訴人に支払つていた利息損害金等の金額を差し引いており、またその余の被控訴人に対する支払はすべて相原の出捐にかかるものであるから、一部弁済金として自らの出捐をしていない控訴人がその返還請求権を取得するはずがない。なお、控訴人が本件債務引受の際相原および大明建設株式会社において将来取得する不当利得返還請求権を譲り受け当日右訴外人から被控訴人にその旨の通知がなされたことは否認する。

(二)  仮りに、被控訴人が控訴人に対し不当利得返還義務を負い、これと本件物件の引渡請求とが同時履行の関係にあるとしても、被控訴人は控訴人に対し左記損害賠償債権を有するから、これと右不当利得返還債務とを本訴において左記順序により対当額において相殺する。よつて被控訴人の右債務はすべて消滅したことになるから控訴人の主張は理由がない。

(イ) 本訴請求にかかる損害賠償請求権、即ち控訴人において被控訴人が本件建物の所有権を取得した昭和三九年七月一五日以降別紙物件目録(二)記載の建物部分を不法に占有しておることにより、被控訴人が控訴人に対し有する月金八万円の割合による賃料相当の損害の賠償請求権のうち、右日時以降昭和四三年九月一四日までの分計金四〇〇万円

(ロ) 控訴人において本件建物中別紙明細表記載の部分を昭和三九年七月一五日以降不法に占有して第三者に賃貸し、これにより被控訴人が控訴人に対し有する月合計金二一三、〇〇〇円の割合による賃料相当の損害の賠償請求権のうち、右日時以降昭和四〇年二月一四日までの分計金一、四九一、〇〇〇円

第三  立証関係<以下略>

理由

一被控訴人が昭和三八年一〇月一〇日訴外相原満及び大明建設株式会社に対し金一、〇〇〇万円を弁済期昭和三九年二月一〇日、利息は毎月一〇日当月分を持参払い、これを怠るときは期限の利益を失なうこととして貸し付け、その担保として相原が所有していた本件物件につき抵当権を設定し、かつ選択的な代物弁済の予約をして、抵当権設定登記および代物弁済予約に基づく所有権移転請求権保全の仮登記をしたことは当事者間に争いがない。<証拠>を綜合すると、右相原はこれより先、大明建設株式会社の代表取締役であり控訴人の父である訴外梶原好恵から、金融機関より低利の建設資金の融資が得られるから本件の土地にビルを建設してはどうかと勧められ、その融資を予期して、他より頭金三〇〇万円を工面した上、右会社にその建築を依頼し着工するにいたつたが、その後予期に反して右の融資が得られないため相原はその資金に困つた末、梶原の勤めにより被控訴人から大明建設株式会社と連帯して前記のように未完成の本件建物およびその敷地を担保として金借したものであること、このような経緯のため、利息については、相原との関係においては月二分の約であつたが、これとは別に右会社において謝礼金として月二分を被控訴人に支払うことを約定したものであり、遅延損害金については相原との関係においても月四分と定めたものであることが認められ、右認定に反する原審証人梶原好恵の供述部分は措信しがたい。

二次に、<証拠>によれば、本件貸借の成立した昭和三八年一〇月一〇日に相原らからその利息及び謝礼金として被控訴人に金七〇万円が支払われたことが認められ、当審証人梶原好恵の証言中同日の支払金が金八〇万円であつたとする部分は右証拠に対比し信用しがたい。そしてその後昭和三九年四月二〇日までの間に利息、損害金として合計金一五三万円が支払われたこと、右同日被控訴人は元本についても金二〇〇万円の弁済を受け、同時に控訴人は本件物件を前記抵当権つきのまま相原から買い受けた上、残元金八〇〇万円の債務につき相原らに代わり控訴人がその債務を引受け(この引受が免責的債務引受の趣旨であることは弁論の全趣旨により明らかである。)、本件物件についての前記代物弁済予約上の地位を承継したことはいずれも当事者間に争いのないところである。

ところで控訴人は右債務引受に当りその支払方法は後日協議することとされたから弁済期の定めのない債務となつた旨主張するので、この点につき検討する。<証拠>によると、当初相原は本件貸借の弁済期までに建築が完成し、これを処分して弁済に当てるつもりであつたが、本件の借受金を受領した梶原好恵がこれを他に流用したりして建築工事は予定どおり進捗せず、右弁済期当時いまだ完成を見るにいたらなかつたし、他方被控訴人に対する期限後の損害金の支払も滞り勝ちとなつていたため、相原は右梶原から本件物件および債務の肩代りについての申出を受けると、容易にこれに応ずるにいたつたこと、そして被控訴人は昭和三九年四月二〇日右梶原および控訴人らからその旨の申込を受け、前日までの損害金五三万円と元本内入金二〇〇万円の支払を受けることにより、控訴人の本件物件の取得および前記のような残債務の引受を承諾し、翌二一日関係者が落ち合つて本件物件につき控訴人への所有権移転、前記抵当権の被担保債務の一部弁済および控訴人への債務者変更の各登記を経由したことが認められ、かような債務引受の事情と、<証拠>を綜合すると、右債務引受に当つては、特に弁済期に変更したわけでなく、ただ控訴人側より当初は五月中に、その後さらに六月中には、本件物件を処分するか、または金融機関に肩代りするかして弁済するとの申入れを受けて、被控訴人が結局同年六月末日まで代物弁済の予約完結権の行使を猶予したものと認定することができる。<反証排斥>

三控訴人は右債務引受および代物弁済予約上の地位承継は被控訴人の暴利行為で無効であると主張する。ところで控訴人は前記のとおり残元本八〇〇万円の債務を引受けたのであるが、それまでの間に支払われた前記利息損害金は利息制限法所定の利率を超過するものであるから、これを制限内の利率に引き直して元本に充当すると、控訴人主張のように元本残債務は相当減額されることとなる。しかし、これを考慮した上、本件物件の当時の時価が控訴人主張どおりの二千万円であつたとしてみても、前記認定にかかる債務引受の経緯に徴し被控訴人が控訴人の窮迫、無経験又は軽卒に乗じ適当な利益を得ようとしたような特別の事情は認められない本件においては、右債務額と目的物件の時価とを比較考量すると、いまだこの程度の較差をもつて控訴人の債務引受および代物弁済予約上の地位承継の契約が被控訴人の暴利行為であつて民法九〇条に違反するものと解することはできない。よつて控訴人の右主張も採用の限りでない。

四しかして被訴控人が昭和三九年七月一三日代物弁済を原因とする所有権移転登記をし、翌一四日控訴人に対し代物弁済予約完結の意思表示をして、これが翌一五日控訴人に到達したことは当事者間に争いがない。控訴人はその当時債務不履行の状態ではなかつた旨主張するが、被控訴人が予約完結権の行使を猶予したのは同年六月末日までであることは前記認定のとおりであつて、それ以上に弁済期ないし予約完結権の行使時期を猶予したことはこれを認めるに足りる証拠はなく、かえつて原審および当審における被控訴本人の供述によると、控訴人は本件債務引受後同年五月一三日金一〇万円を支払つた(この事実は当事者間争いがない)のみで約定のその余の損害金を支払わないのみならず、同年六月末日を経過してもなお元本の弁済をしなかつたこと、なおそのほか控訴人において独断で保証金を収受して本件建物の部屋貸しを始め、また前記相原に対する買受代金の清算金をも支払わないことを聞いて、被控訴人は不安になり、右予約完結権の行使に及んだものであることが認められる。従つて被控訴人の右予約完結権の行使は適法有効になされたものというほかはない。

五次に控訴人は右代物弁済を原因とする移転登記は被控訴人に交付した委任状、印鑑証明等を乱用してなされた旨主張し、原審及び当審において証人梶原好恵は右交付書類が他の目的のためのものであつた趣旨の供述をしているが、この供述部分は前示甲第二号証の一、原審及び当審における被控訴本人の供述に照し措信しがたく、他にこれを認めるに足りる証左はない。また控訴人は右登記が前記予約の仮登記に基づく本登記としてなされなかつたから無効であると主張するが、代物弁済予約による仮登記があり、しかもその完結の意思表示がなされた場合でも、代物弁済がなされた以上、仮登記に基づく本登記の方法によらずに直接代物弁済を原因とする所有権移転の登記をするには何んらの妨げがあるはずはなく、ただこの場合は仮登記による順位保全の効力を主張しえないだけのことであるから、右の主張も採用できない。控訴人はさらに本件登記は予約完結の意思表示前になされているから無効である旨主張する。なるほど登記当時には未だ登記原因を欠くものではあるが、本件ではその二日後には代物弁済予約完結の意思表示がなされており、結局その登記は実体関係に符合するにいたつているのであるから、この程度の前後の齟齬をもつて右登記が無効であるということはできない。

六してみれば被控訴人は代物弁済により本件物件の所有権を取得したものというべきであり、控訴人が本件建物のうち別紙物件目録(二)記載の部分を占有していることは当事者間に争いのないところであるから、控訴人は被控訴人に対し右建物部分から立退いてこれを明渡す義務があるものといわなければならない。これに対し控訴人は、被控訴人が代物弁済予約の完結により本件物件を取得した以上、被担保債権につき支払を受けた元利金はこれを返還すべきであつて、これと本件物件の引渡とは同時履行の関係にあると主張するので、次にこれを検討する。

(一) ある債務につき代物弁済の予約がなされた場合には、その予約は通常当該債務に対する担保的機能を有し、しかもその債務の弁済期までの元利金と代物弁済予約の目的物との価値とは、少くとも当事者間においては通常経済的に等価関係に立つものと評価されているものというべきであるから、債務者より元利金の一部弁済があつた場合に、予約完結権の行使は特段の事情のない限り妨げられるものではないが、債権者において代物弁済により目的物を取得するとともに一部弁済による利得をも保有するものとすれば、その限度において二重に利得する結果となる。従つてかかる場合には債権者は一部弁済にかかる元本及び利息に相当する額――利息制限法所定の利率を超過する利息を支払つた場合にはその超過する部分をも含めて――を不当利得として債務者に返還すべき義務を負うというべきである。また遅延損害金については、代物弁済予約の当初、将来債務者において債務の履行を怠ることが通常予見されているとはいえないであろうが、しかし他方債務者において履行期後直ちに予約完結権を行使するとは限らず、これを猶予してその間の遅延損害金の支払を受けることも予想されていないわけではないのであるから、遅延損害金についても、利息と同様に代物弁済目的物件の価格と等価関係に立つものの一部としてこれに包含せしめ、債権者が予約完結権の行使により目的物件を取得した場合にはこれをも返還すべきものと解するのが相当である。

従つて本件においては被控訴人は前記のとおり元金、利息及び遅延損害金として合計金四三三万円の支払を受けているのであるから、これが金員を返還すべきであり、また被控訴人はこれを返還しないで代物弁済の目的たる本件物件を取得しているのであるから悪意の受益者というべく、従つて被控訴人はその時以降右金員に対する法定利息をも支払う義務があるものといわなければならない(控訴人はその翌日以降の遅延損害金を主張しているが、不当利得返還債務は期限の定めのない債務であつて、受益のときに直ちに履行期が到来するものではない。しかし本件における控訴人の右主張には法定利息の主張も含まれているものと解して差し支えない)。そして控訴人は年六分の商事法定利率による支払を主張するが、被控訴人が金融業を営んでいるとしても、そのことだけでは商行為を業とする者とはいいがたいから、その主張は理由がなく、被控訴人は年五分の民事法定利率による法定利息の支払をすれば足りるというべきである。

(二)  ところが本件においては、右不当利得返還請求権のうち昭和三九年四月二〇日までに支払われた元金、利息及び遅延損害金計四二三万円について控訴人が果してその返還請求権を取得したものかどうかが争われており、これにつき控訴人は、同人が相原らの残債務を引受け本件物件を買受けた昭和三九年四月二〇日に相原らから同人らがそれまでに支払つた元利金等についての将来の返還請求権を譲り受け、相原らから被控訴人にその旨の通知がなされたと主張するが、本件において、特にかかる譲渡及びその通知がなされた事実については、これを認めるに足りる証拠はない。しかしながら、右日時に相原ら、控訴人及び被控訴人の三者間において、控訴人は相原らから本件代物弁済予約の目的物件を譲り受けるとともに、相原らの被控訴人に対する残債務全部を免責的に引受けて代物弁済予約上の地位を承継し、また控訴人は相原に対しこれに関する清算金を支払う旨約したことは前記認定のとおりであるから、控訴人は相原らに代わり被控訴人に対する本件消費貸借及び担保関係上の一切の地位を承継取得したものというべきであり、従つてかような場合には、それ以前における元利金等の一部弁済が相原らの出捐にかかるものであつたとしても、被控訴人において予約完結権の行使により控訴人から本件物件の所有権を取得したことによつて生ずる右一部弁済金の返還請求権は、右のとおり本件消費貸借上の一切の権利義務を承継した控訴人に当然に帰属するものと解すべきである。そしてその後における遅延損害金一〇万円の弁済は控訴人によりなされたこと前記のとおりであるから、控訴人はこれをも併せ合計金四三三万円の前示不当利得返還請求権を取得したものといわなければならない。

(三) 次に、代物弁済の予約権の行使による目的物件の給付請求と一部弁済金の返還請求とが同時履行の関係に立つかどうかを考えてみる。ところで代物弁済は目的物件の給付があつて初めて債務消滅という効力が生じ、その結果として一部弁済金の不当利得返還請求権が発生するものであるため、目的物件の給付がなされるまではいまだ右の不当利得返還請求権は具体的にその発生をみるにいたつていない。しかしそうだからといつて、そのことのために直ちに両請求の間に同時履行の関係を否定しなければならないこととなるわけのものではない。けだし、右の場合には、目的物件の給付がなされればその当然の結果として直ちに一部弁済金の返還請求権が生ずるという関係にあるのであるから、その間に履行上の牽連関係を認めても別段に支障はなく、これはあたかも弁済とそれにより交付を求めうる受取証書の請求との間に同時履行の関係が認められているのと同様だからである。また本件においては、目的物件が不動産であるため、いまだその引渡はなくても移転登記の完了によつて代物弁済の効力が生じ、既に一部弁済金の返還請求権は発生しているのであるから、なおさらのことというべきである。そして代物弁済の目的物件の給付と一部弁済金の返還とは右にみたとおり密接な関係をもち、しかも前記(一)で述べたところから明らかなように目的物件と弁済金とは広い意味の対価関係にあるということができるのであるから、その相互の履行においても同時履行の牽連関係を認めることが両者間の公平を期する所以であるといわなければならない。

(四)  ところが、被控訴人は、控訴人の被控訴人に対する右不当利得返還請求権に対し本訴においてもその主張の反対債権をもつて相殺の意思表示をしたことは本件記録により明らかである。

まず第一順位で相殺に供する反対債権について判断すると、前記のとおり控訴人は被控訴人が所有権を取得した昭和三九年七月一五日以降も前示本件建物部分を明渡さず、これを不法に占有しているのであるから、被控訴人に対し右日時以降明渡にいたるまで賃料相当の損害賠償義務を負うものというべく、そして原審における被控訴本人の供述によれば、右占有部分の相当賃料は一箇月金八万円であることが認められ、他にこれを左右するに足りる証拠はない。従つて被控訴人は控訴人に対し右日時以降昭和四三年九月一四日まで月金八万円の割合による損害合計金四〇〇万円の賠償を求める反対債権を有するものである。

また第二順位で相殺に供する反対債権につき判断すると、<証拠>によると、控訴人は昭和三九年七月一五日以降本件建物中別紙明細表上欄記載の部分をも不法に占有することにより、それぞれ一箇月同表下欄記載(ただし同表の部分については金二六、〇〇〇円)のとおりの賃料相当の損害を被控訴人に被らしめていることが認められ、他にこれを左右するに足りる証拠はないから、被控訴人は控訴人に対し右日時以降昭和四〇年二月一四日まで月計金二一一、〇〇〇円の割合による損害合計金一、四七七、〇〇〇円(被控訴人は金一、四九一、〇〇〇円の損害を主張するが右認定金額を超過する部分についてはこれを認めるに十分な証拠がない。)の賠償を求める反対債権を有するものというべきである。

よつて、控訴人の被控訴人に対する前記金四三三万円及びこれに対する控訴人が本訴で主張する日時たる昭和三九年七月一六日以降完済まで年五分の割合による利息の支払を求める受働債権と被控訴人の控訴人に対する右第一順位の自働債権とにつき、相殺適状となつた日々を基準としてその都度、利息、元本の順序で順次相殺充当すると、被控訴人の控訴人に対する右自働債権はすべて消滅するとともに、右受働債権も利息全部及び元本の一部につき対当額において消滅し、さらに同時に受働債権の右残元本に対し被控訴人に対する第二順位の自働債権をもつて相殺されることにより、受働債権たる控訴人の被控訴人に対する右不当利得返還請求権はすべて消滅に帰するとともに、右自働債権についても受働債権の右残元本に対応する金額の限度において先に弁済期の到来したものからの順序により消滅し、その金額も客観的に確定しているものであることは、算数上明らかなところである。

してみると、控訴人が本件物件の占有部分の引渡と引換給付を主張する前記不当利得返還請求権は既に消滅しているものといわざるをえないから、控訴人の同時履行の抗弁は失当として排斥を免れない。

七以上の次第で、被控訴人の控訴人に対する本訴請求中、本件建物の前記占有部分の明渡を求め、かつ昭和四三年九月一五日以降右明渡まで月金八万円の割合による金員の支払を求める部分は正当として認容すべきであるが、昭和三九年七月一五日以降昭和四三年九月一四日まで月金八万円の割合による金員の支払を求める部分は、前記六(四)のとおり本訴において相殺に供したことにより消滅に帰しているから失当として棄却すべきであり、また他方控訴人が被控訴人に対し本件代物弁済に基づく所有権移転登記の抹消登記手続を求め、かつ被控訴人が本件物件の所有権を取得しなかつたことを前提とする金員の支払を求める反訴請求はいずれも理由がないものとして排斥すべきである。

よつて右と異なる原判決を変更し、被控訴人の本訴請求中右の限度においてこれを認容し、その余を棄却すべく、控訴人の反訴請求はこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第九二条を適用して主文のとおり判決する。

(青木義人 高津環 弓削孟)

物件目録<省略>

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